先月読んだ『虐殺器官』。
その著者、伊藤計劃氏の遺作となった『屍者の帝国』を読みました。
この『屍者の帝国』は、伊藤氏が早逝したために未完のまま遺された冒頭の草稿30枚を、生前親交の深かった円城塔氏が書き継いだ作品です。
「言葉」がキーワードになっており、その点においては『虐殺器官』や『ハーモニー』と通じるものがある辺り、伊藤節が炸裂しているな、と個人的には思っています。
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しかしながら『虐殺器官』や『ハーモニー』に比べると、やはり大半を書かれているのは円城氏ゆえか、何となくSF小説らしい小難しさを感じられる…と言うか。
やっぱりこう、伊藤氏とは違う印象を受けます。
今作は歴史改変フィクション…になるのかな?
かの有名な推理小説『シャーロック・ホームズ』に登場する、ジョン・ワトソンを主人公として物語は進みます。
ホームズは直接的には出てきません…が、兄が少しだけ登場し、その時に探偵の弟の存在(=シャーロック・ホームズ)が示唆されます。
改編小説なので何となくの時間軸イメージではありますが、ざっくり言えばホームズに出会う前のワトソンの物語…といった感じでしょうか。
舞台は1870年代。
19世紀末に屍体を「屍者」として運用する技術が確立し、屍者が世界の産業や文明を支える時代となっていました。
ワトソンは医学生ですが、ある日その有能ぶりを見込まれて国の諜報機関にスカウトされます。
そしてまるで人間のように俊敏な動きをする新型屍者の存在を聞かされ、調査のために世界を回ることとなるのです。
***
新型屍者を追う内に、屍者にまつわる謎や、屍者技術を暴走(全生命の屍者化)させんとする存在などが複雑に絡み合ってきます。
それらを、真相を、ひたすら追っていく物語です。
聖書などの言葉の引用が多用されていたり、実在する人物が設定を改変されて出てきたりと、SF小説に慣れていない方だと何が何やら状態になるかもしれません。
しかも世界を旅するので何かと場面も切り替わり、今は何のために誰とどこへ行こうとしているのか?というのを整理しながらでないと、物語を把握するのもひと苦労です。
実はわたしも細かい部分は何となくの把握しかしていません…。
ただエピローグでは誰もが知る『シャーロック・ホームズ』の流れが垣間見えて、「おっ?」という気分にさせられます。この繋げ方は中々面白い。
何はともあれ、さすがは伊藤氏。相変わらず発想が非常に面白いと思います。