買ったままずっと読めていなかった『今宵も喫茶ドードーのキッチンで。』をようやく読みました。
舞台はコロナ禍真っ只中の東京。世間が不安や窮屈さ、先行きの不透明感に満ちていた頃のお話です。一話完結型の短編集形式となっています。
主人公は一話につき一人、計五人の女性。それに加えて、喫茶ドードーの店主(+α)が登場します。
五人の女性たちはそれぞれに自立していて、自分なりに社会で働きながら生活していますが、同時に上手くいかない気持ちや悩みを抱えています。
そんな時にふと見つける、おひとりさま専用カフェ『喫茶ドードー』。
店主オリジナルのメニューと、ちょっとしたやり取りで気付きを得た女性たちは、明日も日常に戻っていくのです。
これ、意外と(?)女性たちの悩みがリアルなんですよね。
SNSにあふれる『#ていねいな暮らし』に振り回され、自分はそう出来ないことに落ち込んだり。
コロナ禍での店舗運営に取り組み、最少人数で効率化を進めた結果、一人欠ければ負担が増していく店長だったり。
ほんわかほっこり小説として「あるある〜」で済ますには少々…笑えないと言うか…。個人的には「あぁ…あるよねぇ……」という感じ…。
そして…わたしの所感としてはお話の締め方としてちょっと浅いかな、という気も。良いこと言って終わったな〜感。
主人公たちの悩みはリアルで共感できるけど、その解決方法についてはわたしとしては共感しにくかったです。
ただわたしは共感しにくいけれど、あれはあれでちゃんと『答え』なんですよ。彼女たちにとっての。間違っているわけではない。
いま自身が抱えている悩みに対し、あるキッカケを受け(この本では『喫茶ドードー』との出会い)、視点を変えてみる。発想の逆転をする。
そういう解決の仕方なんですよね。結局のところ『自分がどうするか』。
悩みの数だけ答えがあって、どれもみんな同じわけがないんです。環境や状況が少しずつでも違うわけですから。
だからまあ、彼女たちはそういう前の向き方(選択)をしたというだけのこと。…なのかな、と。
***
う〜ん。まあそれはそれとして。
上手く言えないけれど、結局上手いこと綺麗によくある感じで終わらせようとしているようで、お話としてもあまり入り込めなかった感じはあります…。
それぞれ短いお話だからでしょうか。THE・起承転結!で終わってしまう感。
深みを感じにくいと言うか…お話の流れが典型的な『現状(起)→悩み(承)→悩みが爆発(転)→解決(結)』みたいな。サクッと読めてわかりやすいという点は利点ですね。
あとは途中で語り口が変わるのも少し読みにくかったです。意図は分かるのですが。
短編かつ起承転結がはっきりしたテンポ感で読み進めている中で、突然間に挟まれる絶妙な据わりの悪さ感…。
もうこの辺りは完全に作者と読み手の相性かなと思います。
ただ面白いなと思ったのは、各話がそれぞれつながりのある世界線上で書かれていることを示唆する表現。
一話で主人公が追っていたSNSインフルエンサーが、三話の主人公だったり。
二話で登場したアイテムを作ったのが五話の主人公だったり。
この辺りの繋げ方、ないし設定の忍ばせ方は「なるほど」と思いました。
短編集でありながら、ちゃんと一冊の本の中に一貫性を見つけてワクワクする感じ。「その頃、裏ではこんなことが!」ってやつですね。
サクッと読める軽めのお話をお探しの方には良い本だと思います。余計なグダグダはないので。
喫茶ドードーの前で足を止めてみたい方は、ぜひ。